21-09-18 『みかみの子』がティアズマガジンに掲載されました

こんばんは、くじきです。
表題の繰り返しとなりますが、『みかみの子』をティアズマガジンにてご紹介いただきました。
ここ数年出した本の中でもかなり言語化が難しい話だったと思うのですが、Push&Reviewコメントをお寄せいただきありがとうございます。
自分では到底浮かばないような表現をしていただき慄きました……
コメントはコミティアの公式サイトでも見ることができますので、気になる方は覗いてみてください。

『みかみの子』について公の場ではなにも言っていなかったと思いますので、この機会に少し書かせていただこうと思います。

2021/4/1発行済の『みかみの子』、現在作業中の『予知を確かめて』、その次に発行予定の『性命』、またその後にも発行するであろう一連のお話は、総て『さざんか』という連作の内のひとつです。
さざんかとは秋から冬にかけて咲く花であり、晶紘では「慈愛」という花言葉が当てられ、幽芳辰では「死者の世界へ通ずる木」と呼ばれているものです。
そして作中に出てくる作家、諏訪隆康の遺作の題名でもあります。

諏訪隆康はこの連作の中で多く目線を担うことになるであろう人物、化田若靖の筆名です。
『さざんか』は三ヶ崎知生と出会ってから彼と別れるまでの日々を元に書かれた彼の著作でもあり、彼らが出会ってから別れるまでをくじきが記録した話でもあります。

/

わたしが記録する彼らの事は、回想と夢が入り混じり時も場所も頻繁に入れ替わるのが基本となりやすいです。
それは彼らにとって必然の順序であるがゆえに、順番を変えてしまうことは赦されません。
『さざんか』はこの他者を惑わせやすい構造に加え、今現実で起こっている事ですらも不連続に描かれていくお話です。

『みかみの子』では三ヶ崎知生が自称16歳の時の出来事が多く描かれていましたが、約半年間の出来事が時系列順で描かれているわけではありません。
また、ある場面では彼が20歳の時に化田若靖に持ち掛けた会話の場面が挿入されています。
おそらくですがこのお話はもともと回想録であるために、「いつ」が不要なのだと思います。
思い出と言うのはある・あった・そうだったかもしれないというだけの話で、公的な記録ではないからです。

ちなみに『ふゆざれの形見ぐさ』収録の『千年目の慈悲』にも彼らは出てきますが、あの会話場面での三ヶ崎知生は20歳くらいです。
『千年目の慈悲』もまた、諏訪隆康の著作一覧にあるものです。

『みかみの子』では彼らの邂逅と始まったばかりの日々が多くありましたが、『予知を確かめて』では三ヶ崎知生のみかみの子としての力、のようなものである「予知」と、相手に踏み込み過ぎたり踏み込まれ過ぎたりの結果起こるごたごた、のような話が多くあります。
その次の『性命』では幽芳辰とその国の人々が中心となる予感がします。つまり、過去の話です。

/

このお話の目や耳である二人は結局どういうひとたちかという話ですが……

三ヶ崎知生はある日をきっかけに特殊な施設に入り、世に「みかみの子」と呼ばれた青年です。
鏡の中に死者やかみさまを見て、意識的に「予知」が使えます。
これは、使おうと思えば使えて使わないと思えば使わなくても済むものです。
彼はこの予知を意図的に、頻繁に行いますが、どんな結果が出たとしても「それが当たっていたかを確かめたい」と言い自ら危険に飛び込んでいくことがあります。
ただ、自分が親しくしている人が危険にさらされるであろう時にはそれを回避するらしく、その時に葛藤が生じることもあるようです。
『みかみの子』でも口にしていましたが、彼は弱いひとが虐げられるのを赦せないというたちです。
歳上の男性を毛嫌いしており、悪乱佞報室という職場でたまに居合わせる男性に対しても当たりがきつい傾向にあります。
ただ、幼少の頃ともに過ごした「にいさん」と呼ぶ人と、彼に顔が似ているらしい化田若靖に関しては例外のようです。
三ヶ崎知生は死者が見えると言うだけあり、通常人には見えないようなものも多く見ています。
かたつむりのような、ハムスターのような、夢蛾と呼ばれる存在がその一つです。

化田若靖は作家記者であり、悪乱佞報室の室長でもあり、幽芳辰では地方の役人をしており、また、死霊占師と呼ばれることもあった人です。
限定公開記事でも書きましたが、己の過去や出来事の多くを忘れてしまい、意識もないまま思いを口にするようなあやうい人です。
幼少期の記憶の大部分が欠落しており、事実と本人の認識が食い違っていることもあります。
真野若菜とさざかという人たちを喪ってから酒と薬なしでは眠れなくなり、特に彼女たちが死んだ冬にはまともに働けないような状態にまで落ち込みます。
もともと酒を入れると記憶を失い無意識状態にまで陥るひとですが、晶紘に来てからは「忘れ水」と呼ばれるものを口にしはじめ、日常生活の中で突然「自分がここに居ない」ような状態になることがたびたびあります。

突然現れた三ヶ崎知生のことをあっさりと受け入れたうえで生活の援助もしており、彼の給料の半分は二人分の家賃に消えていくようです。
歩合制の記者とは違い室長である彼は時給制で、かつ仕事中毒気味であるためなんとかなっているようです。

死霊占師とは特定の境遇にあるこどもたちにだけ、幽芳辰の「天子さま」が与える仕事だと言われています。
土地を見たり、きれいにしたり、霊を見たり、祓ったりが仕事の多くを占めています。
彼もまた三ヶ崎知生と同じく霊や夢蛾を見ることができる人です。が、死んだ彼女たちの霊を見ることはないようです。

21-07-23 もう会えないひと

 

210707 『いつか知ること』 ――カミナと三ヶ崎知生     210721 『忘れられないひと』 ――三ヶ崎知生と化田若靖
ukiamenosita.info

『忘れられないひと』の絵解です。

化田若靖の部屋前廊下で、三ヶ崎知生は鏡を眺めている。
三ヶ崎知生は振り向かず言葉のみを返していたが、笑顔がこぼれた時、ようやく彼に向き直る。

・にいさん……人名。三ヶ崎知生が幼い頃、共に暮らしていたという人物。
行方知れずとなった名も知らぬ彼を、三ヶ崎知生は探し続けている。

『いつか知ること』のあとの場面。
『みかみの子』で三菱懐子が言っていたように、化田若靖の顔は偶然にも”にいさん”に酷似している。
化田若靖との出会いは三ヶ崎知生の作為的なものだが、彼が忘れられないひとに似ていなければ、互いの道が重なることもなかったかもしれない。

21-07-08 いつか知る なにを知る

210707 『いつか知ること』 ――カミナと三ヶ崎知生     210721 『忘れられないひと』 ――三ヶ崎知生と化田若靖
ukiamenosita.info

 

『いつか知ること』の絵解きです。

天国区の空き地で話す二人。
三ヶ崎知生は仕事をする中で首に怪我を負い、そのことをカミナに問われる。

「かみさまは木や陶器ならよくて、ひとの形をしていたらだめらしい」
と彼は『みかみの子』で口にしていた。
草木は手折られてもなにも言わない。
かみさまもまた人になにをされようと、どうも思わない。

他者に抑圧された時には必ずしも怒らなければならないだろうか。
傷つけられたことを当然のことだと受け入れるのはそれほどまでに悪だろうか。
身近な人物の過去を知る時に、三ヶ崎知生はその疑問に向き合うことになる。

・カミナ……人名。三ヶ崎知生の分断した魂。

三ヶ崎知生の地毛と同じ沼色の髪、鮮やかなさざんか色の目を持つ女性。
三ヶ崎知生とは時折会って話す。彼のことを心配している。

21-06-30 魂を壊すわたしの道しるべ

6/30『魂のない石木の人形、魂を壊すわたしの道しるべ』

あなたが求めたもの、わたしが求めたもの、神が壊していった

曾宮の家、石木の部屋、窓の外の三本の石、霧雨、夢蛾、陶器の器、死雪樹の葉、吊るされる血の染みた布団、己の人形に手を置く真野若菜。



・曾宮石木……人名。『そみや いしき』。真野若菜が産まれた時の名。

・夢蛾  ……『むが』妖精のようなもの。

・死雪樹 ……植物名。『しせつじゅ』。死霊占師が魔除けとして枝を摘む。

・人形  ……三菱家が作った。

・真野若菜……人名。『まの わかな』。化田若靖の先妻。強い力を持つ死霊占師。

21-06-20 わたしの命をあなたへ贈る石

6/13と6/19に上げた2枚の連作の絵解です。

◆6/13:『巡礼』

天子さまにより作られたわたしたちは死した後その肉体を地の底へと還す
魂を移した赤い石が墓標になる その命を分け与えあなたへと贈る
わたしの火をどうかあなたの命へと繋いでいて

……雨の降る墓地、赤い石が嵌められた棒状の墓、遠くへ見える死者のための宿泊所、空を飛ぶ3羽の鳥、祈るように手を組む化田若靖。

◆6/19:『わたしの命をあなたへ贈る』

あなたはいつかこの石を魂を守るものだと教えてくれたね
鳥獣に身を引きちぎられても心だけは守られるようにともたらされた石だって言っていたね
おれはそんなもの要らなかった
だってそれを預かっている間にあなたが死んだらどうなるんだよって不安だった
怯えていたのはおれのほうだった

墓地、赤い石が嵌められた棒状の墓、天へ伸びる6つの煙、心守石を手に持つ三ヶ崎知生。



幽芳辰の人間はみな心守石と呼ばれる赤い石を胸に下げる。
三ヶ崎がいつも首にかけているのは『みかみの子』の中で化田から譲り受けていた石である。

・幽芳辰……国名。『ゆうほうたつ』または『みずいろむあお』。
・心守石……物質名。『こころもりいし』と呼ばれる赤い石。玉の下部が削られており平らになっている。

『わたしの命をあなたへ贈る』の右側がみょうに空いていたので、好奇心で重ね合わせたもの。
3羽の鳥のうち1羽が隠れていることと、『みかみの子』と呼ばれる主要な存在が三ヶ崎を含め3人であることがなんとなく重なる気もして、ほんとうはこういう絵だったのかもしれないです。

この2人はどれだけ近い場所に居ても最終的にはどこかすれ違っているふしがあります。化田くんは水の中から手を出さないし三ヶ崎くんは陸から水には降りようとしない、お互いに重なり合うのを避けているような。
そんな感じです。ご覧いただきありがとうございます。